2016/9/22
2002年に見学をさせていただいたきり、すでに10年以上が経ちました。当時、新しく河原さんの米酢を導入させていただいたのを機会に訪問しています。

米酢『老梅』は道長にとって特選の米酢ということもあり、私、大介にとっても、今回の見学には大きな期待がありました。

2002年の訪問時、新築されたばかりだった瓶詰め工場に現在、さらなる酢造蔵と酒造蔵が新設され、すばらしい社屋として一体化されています。

米酢はお酒から作られます
米を蒸し、その一部で米麹を仕込み、この米麹と酵母を使い、まずは日本酒を仕込みます。(米麹は米のでんぷんを糖分(ブドウ糖)へと分解し、酵母はこの糖分を使い、アルコール発酵を行います。)

日本酒ができたら、今度は酢酸菌を使い、酢酸発酵(酢酸菌はアルコールを酢へと変化させます。)させることで、米酢はできあがります。

文章にしてみると難しく聞こえますが、実際、河原酢造さんで行われていることはすごく単純。でも、これってものすごいことなのです!。つまり、米酢の醸造のすべてを自社で行っているのですから。
普通、酢のメーカーは日本酒を酒造メーカーから仕入れます。だって考えてみれば、そのほうが合理的だと思いませんか?

酒造メーカーは大手から小さな酒蔵まであって、それぞれが消費者のニーズに合う日本酒を作っています。

お安いものから、原料にこだわったお高いものまで。いい日本酒を求めるならば、日本酒のプロに頼めばいいような気がします。でも、河原さんは言います。「米酢を仕込むには、飲んでおいしい日本酒ではダメなんです。」

河原さんに必要な日本酒にはうま味は必要です。でも、すっきりとした飲み心地と香りが重要なため、お米をかなり削って、お米の真ん中の方のでんぷん質の多い部分だけを使う大吟醸のような日本酒は必要ありません。(僕はアルコールが飲めないので、お酒の味がわからないんですが…。)

飲むためではなく、おいしい酢のための酒造りが基本
ビニールチューブから空気を送り、その圧で酒を絞る
大吟醸の日本酒を使い、米酢を仕込むと、深みの少ない寂しいものが仕上がってしまうそうです。精米は、白米よりも少し残すぐらい。9.2〜9.3分づきのお米を使うことで、あえてうま味・雑味のある米酢のための日本酒を仕込みます。

これに、できあがっている米酢を加えてPHを調整してから酢酸菌を投入。最初の2、3日は表面だけにヒーターを使い、酢酸菌の発酵のスイッチを入れ、あとは3か月じっくり待つことで米酢はできあがります。

3か月!
酢酸菌は好気性なため、河原酢造さんで行っている静置発酵では表面で酢酸発酵が行われるため、とにかく時間がかかるのです。

酢はアルコールよりも重いため、表面で酢になると下のアルコールと入れ替わります。ゆっくり時間をかけて対流しながら、すべてが酢へと変化するのに3か月という時間が必要なのです。
酢酸菌を植え付けたタンクには菌の膜が張り、ゆっくりとアルコールを酢に変えてゆきます(静置発酵)
この3か月の間もただ放っておけばいいというものではなく、当然タンクによって発酵の度合いは違います。

タンクの中身が少なくなっているものは、発酵が盛んなため、温度が上がり、水分が蒸発していってしまいます。この時にはふたをラップフィルムで覆い、好気性の酢酸菌が働きにくくします。
逆に温度が低いままのタンクでは、ヒーターで発酵を促してやる必要があります。

そして、時間をかければいいというわけでもありません。酢酸発酵にはもう少し厄介なことがあります。

酢酸菌は最初、アルコールを餌に発酵をしていきますが、アルコールがなくなると、今度は自分が作った酢酸を餌に発酵を続けます。そしてどうなるかというと…水になってしまうのです!。嫌な匂いのする水に…。(みなさんのご家庭にある酢も、加熱により発酵は止めてあるそうですが、ふたを開けっぱなしにしておくと酢酸発酵がすすんでしまうことがあるそうです。お気を付けください!)
大量生産の酢について
ちなみに、とにかく時間がかかる静置発酵に対するのが「速醸」という方法です。酢酸菌は好気性です。これを速く発酵させるにはどうしたらいいか。わかりますでしょうか?

下からぶくぶくと泡を延々と出してやるのだそうです。こうするとタンクのどこででも酢酸菌は働くことができるので、すぐに酢ができあがります。

その期間、2、3日!!。いくら速いといっても、本来3か月かかるものが2、3日で終わってしまうとは。

でもまぁ、とにかく酢酸発酵のみをガンガン行わせるわけですから、時間をかけて出てくる、奥深い味わいはなく、ツーンとしたきつい口当たりの酢が出来上がります。

ちなみにこの速醸という方法で製造すれば、タンクも2本だけで済むそうで、場所もいらないそうです。

大量生産の速醸法で発酵させれば、たった2個のタンクで済んでしまいます

米作りも泰彦さん。14haを一人でこなす
米作りも
さらに河原さんは、米作りも行っています。14haもの広さを泰彦さん1人で行い、7tのお米を酢づくりのために作っています。

原料であるお米の生産。それから日本酒を作り出し、さらに米酢にして瓶詰にするまでの工程をすべて河原酢造さんで行っているのです!。
ちなみに河原さん夫妻のほかには社員さんが2名とパートさんが1名!!。日本酒の仕込み時期にはお米農家さんがお一人手伝ってくださるそうですが、本当に頭が下がります。

お酒の仕込み時期は12月から3月。この間、社長に休みはなく、工場に泊まり込みだそうです。

酢の味は米麹の時点で決まると、河原さんはおっしゃっていました。最近では、機械麹法という方法が主流で、これはたくさんの麹が一気に作れる半面、原料が米だけのような米酢では、においを悪くしてしまうそうです。

酢が持つ独特のにおいを「ムレ香」というそうですが(濡れた雑巾のにおいと表現する方もいます)、これが河原酢造さんの老梅ではまったく感じられません。

泰彦さんの奥様とお父様照彦さんもいっしょに
河原さんの酢の特徴は『すっきりしたおいしさ』です。まさに、道長の商品作りに欠かせない、すばらしい酢です。

2016年現在、創業193年、7代目ともなる河原酢造さん。のれんは古いが斬新な風味。これからも、さらなる発展をお祈りします。

2002年の見学の模様はこちら
生産者紹介
連絡先:合名会社 河原酢造
〒912-0401
福井県大野市吉8−25
TEL:0779−66−3275
FAX:0779−66−3271
Eメール:info@robai.jp
http://robai.jp